建築でコンピュータ、する?
2023年9月23日(土) 12:11 JST
2020年度の修士論文発表会がオンラインで行われました。今年度の修士論文を簡単に紹介したいと思います。
本研究では3Dプリンターに使用されているエクストルーダを6軸腕型ロボットにツールとして装備させ、6軸プリンティングの造形実験を行いました。一般の3Dプリンタでは鉛直下方向を向いたエクストルーダをxyzの3軸方向に制御することが行われ、サポート材が必要となる、または限られた(z軸方向のみでしか積層できない)アクセス方向による制限があります。6軸での3Dプリンティングが可能となることで、積層パターンのバリエーションが増え、従来の3Dプリンタでは造形の難しいものも造形できます。本研究では6軸プリンティングに必要な実験環境、ツールパス生成方法、その応用などに着目し繰り返し試行し、実際の建築スケールへの展開の可能性を模索しました。本研究で造形した代表作品としては背もたれ椅子、カウンターチェア、と階段の踏面サポート部材の3つがあります。ロボットは様々な姿勢で積層を可能にするため、障害物や既設された部分などを避けながらターゲット位置にアクセスすることで、一体として全体を造形することができました。
最新の画像処理技術を応用し、本研究では、単眼カメラ・深層学習・コンピュータビジョンによる人物・位置・動作の推定手法を提案しました。また、教師あり学習で一般に課題となる学習データの作成方法の提案も同時に行いました。
本研究では下図のようなシステムを作成しました。姿勢推定ライブラリOpenposeを用いることで、容易に作業員の顔付近の画像・足元位置・各関節のシーケンスを取得することができます。
人物推定では、本研究室の学生7人を対象に、顔付近の画像から分類を行いました。また、学習データはRecap Photoで作成した顔の3次元モデルから作成しました。
位置推定は、足元位置から射影変換することによって算出しています
動作推定では、各関節のシーケンスから「立ち止まっている、しゃがんでいる、かがんでいる、掃き掃除をしている、工具で材料を切っている(スライドソーを使用している)」の計5動作を対象に分類しています。
動作推定の為の学習データは、Azure Kinect DKを用いて取得した3次元データをもとに作成しました。
構造材料実験室で検証した結果、人物・動作推定の関しては概ね良好に推定することが可能でした。位置推定に関しては、±100mm以内で推定が可能でした。
画像ベースでは困難であると予想される箒を持っているが立ち止まっている動作なども推定可能であることを確かめることができました。
本研究では、木材にスリットを施すことで柔軟性を上げる曲木技術を用いることで、複雑な曲面を作成することに挑戦しました。平面に展開可能な可展面を曲木で作るのは簡単ですが、それ以外の面を表現する事は容易ではありません。そこで、このような複雑な曲面をペーパークラフトの手法に倣って、帯状の可展面で疑似的に作成することとしました。これによって、複雑な曲面をシンプルな曲木の問題に落とし込むことが出来ました。
ここで、実際に厚みを持った材料をターゲットにしたモデリングについて考えます。通常のモデリングでは3Dモデルがそのまま加工できる形状となりますが、曲木の場合は3Dモデルをそのまま加工できません。つまり、変形して加工用のモデルを作成する必要があります。
そこで、メッシュの接続部分が曲木の変形部分に対応するように考え、平面化のアルゴリズムを作成しました。これによって変形を考慮して加工用のモデルを作成することに成功しました。
最後に、これらの技術を組み合わせて曲木オブジェの作成を行いました。加工には五軸加工機を用いることで、側面の傾斜を効率良く加工しています。これによって複雑に組み合う曲木オブジェの作成を行うことが出来ました。
本研究では、機械加工の際に起きてしまう加工ずれの要因を整理し、加工ずれが避けられない場合の効率的な後工程によるモデルの修正方法を検討しました。そして、伝統木造建築「四脚門」の制作を通して検証を行いました。
3Dモデルに関しては、各部材の設計からアセンブリ―までをパラメーターを設けて調整できるようにし、組付け順を反映させることで設計変更に柔軟に対応できるようにしました。また、継手仕口の処理を行うコンポーネントを作成し、効率よく加工ずれが起きた際に修正を行うことが出来ました。
本研究では5軸加工機を用いて装飾部材の加工を行い、6軸腕型腕型ロボットを用いて、垂直材、横架材の加工を行っています。
実際に加工ができたところまでの部材の組み上げを行いました。結果は部材が取り合う部分に0.5~2㎜の隙間がある箇所が数か所存在しましたが、現場合わせの微調整が必要なく組み付けることができました。このことから、組み上げに関しては許容範囲の精度で各部材の加工、後工程によるモデル修正が出来ていることを確認することができました。