建築でコンピュータ、する?
2024年12月13日(金) 03:06 JST
2020年度ももうすぐ終わります。コロナ禍の散々な一年だったのですが、厳しい環境下においても高水準な研究活動を維持する努力をしてきました。修士研究、卒業研究では、例年に負けず劣らずの結果を出してくれました。
そんな2020年度でしたが、今年始めた新しい取り組みに産業用六軸ロボットによる3Dプリントの研究があります。六軸ロボットの特性を活かした初期段階の取り組み、家具の製作をこちらで紹介しています。
これらの記事の評判もなかなかよく、気分良く研究を推し進められたのですが、以上の実験から得られた知見の集大成として、研究室で使うための階段の制作を企画しました。
これまでの実験から、ロボットアームを使った3Dプリンティングで以下のことが出来ることがわかっています。
これまでは、従来の3Dプリンターと同様に、水平な作業面上での積層による造形を中心に行ってきましたが、今回は、水平面以外の傾いた作業面での造形を特に意識し、また、異種の材料上に直接その場でプリントする技術を試行しました。ロボットで3Dプリンティングを始めるときに最も強く意識したのはロボットはある程度動けるということです。今回の実験ではロボットは固定台仕様なのですが、走行台に載せることでプリントしたい場所でプリントする、そんな芸当が可能です。
今回の実験では、階段の側桁にロボットの前に来て貰いましたが、その反対に、ロボットが階段の近くまで行って作業することも可能なのです。このような必要な場所で必要な3Dプリントをすることをインプレイス・プリンティングと名付けました。もう少しよい用語があるかもしれませんが、本記事のタイトルはここから来ています。プログラムを書かられる方ならインライン展開からの発想だといえば納得して頂けるでしょうか。
階段の側桁部材なども微妙に角度を振ってありますが、これは木工ロボットによるものです。こちらも大工技能としてはそこそこ高度ですが、木工ロボットそのものでは遙かに複雑な形状の加工を既に実現していますので、この後は特に言及しません。木工ロボットの近況報告は2021年度春に予定しています。
この階段では、側桁(というか力桁に近いでしょうか)を含む階段のフレームと踏板を木材とし、フレームと踏板を連結する部材を3Dプリントで造形する、という構成としました。前述の通り、木部材はロボットで加工しました。
桁を含む木フレームが完成したら、いよいよ3Dプリントの段階です。下図が今回施工する3Dプリンタによる造形です。従来の三軸3Dプリンターであれば、このような形を出力するのにサポート材が必要となるでしょう。ロボット3Dプリンタでは、形状プランを複数に分割し、各プランの積層平面をアレンジすることで、複雑な形状の3Dプリントに対応することが出来ます。
これを木製フレームにインプレイスで直接造形していきます。ロボットを使うことで、傾斜面でのプリントにも対応することが出来、これが3Dプリントのバリエーションを拡張していることが理解できると思います。
ここで重要なことについて説明します。木製フレームの位置とパスの調整は慎重でなければなりません。シミュレーションを重ねることでなんとか完成させる事が出来ましたが、今回は手動で木フレームの位置を合わせています。作業空間の情報をあらかじめ収集し、その情報に合わせたパスの修正を実行することができれば、より素早く造形プロセスに移行できると思います。こちらの記事(http://www.hlab-arch.jp/article.php/20210215144330163)で紹介したような技術を組み込めれば、効率向上もですが、さらに複雑な作業面にも簡単に対応できるようになるでしょう。
以下は実際に人が使用している様子です。階段として用いるのに十分な強度を持っています。
インプレイス・3Dプリントについて紹介しました。ロボットを走行台に載せたり、近い将来には自分の脚で作業場所にも移動して働いてくれるようになるでしょう。そういう将来ビジョンを持って、これからもロボット研究開発を続けます。