2024年12月13日(金) 02:01 JST

「ロボットアーム×3Dプリンター」で何ができる?

  • 2020年12月14日(月) 00:00 JST
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オープンラボ中止代替企画、修士2年の研究中間報告、第二報です

普通なら3軸で動く3Dプリンティングを6軸にできたら色々な変化を付けられて面白いかもと、という発想からこの研究を始めました。ロボットで3Dプリンティングするために、まずは市販の3Dペンを持たせて、フィージビリティを確認することから始めました。

3Dペンではフィラメントの吐出速度は決まっており、最初期の実験ではロボットからの信号で吐出のon/offのみを制御しました。一定速度でペン先を動かし、その前後で3DペンのON/OFFする指令を連続させた積層パスです。ここからさらに進み、積層中のロボットの速度を細かく制御することで、積層高さと吐出量を調整するようにしました。最初段階の実験についてはこの記事 「ロボットが余るなんて・・・」で紹介しています。

本記事では、その後の試行錯誤について紹介します。


テクスチャープリンティング

積層パスの一部の点をサンプリングし微少なオフセット移動を与え、さらに、積層レイヤ毎のサンプリングパターンを振ることで、表面に凹凸のあるテクスチャーを持つ曲面を積層することが出来ます。

このようなパターンによるパスをロボット実行すると、次のようなテクスチャーを持った三次元形状をプリンティングできます。

オフセット値の調整で、テクスチャーの模様や凹凸具合が変わります。このアルゴリズムは、基本となるプレーンな曲面に対してパラメトリックな操作で適用できるので、様々なオブジェクトにテクスチャーを持たせて造形してみました。この写真だと、まるでジャガード生地のようなテクスチャに見えるかもしれません。


オリジナル・エクストルーダ

3Dペンのノズル径は小さく、その分単位時間あたりに送出されるメディアの量も少ないです。家具や建築部品などの大きさのものを造形する場合、膨大な時間が必要になります。

これを解決するために、ノズルを交換可能なオリジナルのエクストルーダを制作して、ロボットの新しいツールとしました。オリジナル・エクストルーダは吐出温度および吐出量を可変とし、市販の3Dペンよりも積層手法のバリエーションを増すことを目標に設計しました。


6軸積層

ツールを組立てロボットに装着して造形実験を行いました。第一段階では1.75mm径のPLAフィラメント、1.2mm径のノズルを使用し、3Dペンの時よりはやや効率的に大きな造形を実行可能になりました。最初の造形実験ではロボット3Dプリンティングならではの6個の関節をフルに使う積層方法に挑戦しました。

上図のようなオブジェクトでは、普通の3軸の3Dプリンターではメインボディから分岐した傾いた部分を造形するには大量のサポート材が必要となるでしょう。ロボットによる6軸積層ならば、全体を通してサポート無しで造形することが出来ました。このオブジェクトでは、外殻だけでなく、内部も充填しているので、出来上がったものはとても丈夫で、これに続く実験での実用可能な家具の造形に近づくことが出来ました。


球体パス

普通の3Dプリンターではブリッジ状の宙に浮いた部分を造形する時には仮設のサポート材も同時に積層して、フィラメントが垂れることなく造形できるようにしています。ブリッジ部分の長さにもよりますが、ロボットによる3Dプリンティングでサポート材を不要に出来ないか、チャレンジしました。この実験では、吐出したフィラメントが比較的粘り強く垂れずに留まれる球面の走査パスを試しました。

上図のようなオブジェクトを造形するために、最初は両側の橋脚部分を3軸的に積層します。次に、ブリッジの部分は球体をベースにしたパスで一点を中心にロボットを動かして積層しています。最後に、橋脚部の上部を積層します。


2.85mmフィラメント

ロボットの採用により3軸から6軸の制御となり、3Dプリンティングの可用性を拡張できることが確認できました。いよいよ家具サイズにチャレンジする準備が整いましたが、家具サイズとなるとやはりもう少し積層のスピードをあげたいところです。そこで、市販で入手可能な最大の径2mmのノズルを採用することにしました。2mm径のノズルにはフィラメントの径も太いものが必要で、今回は2.85mm径に交換することにしました。フィラメント径を変更するにはエクストルーダのチューブやフィラメントガイド等も2.85mm用に交換しなければなりません。エクストルーダに使用しているモータも、太いフィラメントをエクストルーダに送り出すためにより大きいトルクを持つモータに交換しました。下の写真はすべてのパーツを取り換えて、2.85mm径フィラメントを採用した造形実験で作られたものです。この実験では、高さ350mmのパラメトリックな植木鉢を積層高さ2mmで問題なく造形することが出来ました。


椅子の造形

ノズル径を2.0mmとしてから、大きいものの造形も短時間で実行可能になりました。いよいよ建築スケールに近い家具の造形です。今回は椅子を対象にモデリングと造形方法を考えました。椅子のモデリングそのものはsubdivision(サブディビジョン)モデリングという手法を採用しました。NURBSとポリゴンを合わせたモデリング方法で、滑らかな曲面表現と自由度の高い面の編集も可能な方法です。最初にポリゴンで粗い分割の形状を制作してから、サブディビジョンサーフェスに変換して細かく分割します。分割数(滑らかさ)は任意に選択でき、部分的に尖った形状にすることも可能です。

この手法により、次図のような椅子をモデリングしました。 これまでの対象物と比較して構成の複雑さも増しています。この形状をどうやって実際に造形するか、これまでの実験で得られた知見を活かしてチャレンジしました。

今回の3Dプリンティングで最も難関となるのは座面の部分です。4本の脚を積層した後に座面の部分を積層しますが、ロボットの腕やツールが対象物の既設部分に衝突してしまう可能性がありました。これを避けるため、座面部分の造形は積層面に対してノズルを垂直に当てないで、ロボットのツールが干渉しないように、少し角度をもって積層しています。

上の写真のように積層プレーンに対して少し傾けてやれば、ツールや腕をうまく逃がすことができ、座面を積層することができます。また、座面の成形では、前回の記事でも紹介した横向積層の技術も活用しています。この技法により、椅子の1本目の脚から次の脚に向けて順に横向きに成形していくことで、サポート材が不要になります。

椅子の造形の最終盤の様子は上の写真のようです。今回の実験ではロボットは走行台に載っておらず固定されていたため可動範囲は限定されています。このサイズの造形物となると、動作範囲外となる可能性もあるため、造形開始前にシミュレーションして確認します。ロボットの姿勢自体は制御ポイントでパラメトリックにコントロールできるので、画面上で造形できることを確認してから、パスを生成して実際にロボットで造形を行います。

シミュレーションを含むワークフローを経て、最終的に椅子を造形することができました。