建築でコンピュータ、する?
2025年5月25日(日) 04:23 JST
肌寒い日が増え、すっかり秋らしくなった今日この頃、、、。例年ならばオープンラボを行って賑わっていたことを考えると少し寂しくなります。 残念ながら今年はコロナウイルスの影響で千葉大学の学祭も無く、同時に開催していた平沢研究室のオープンラボもできませんでした。 本来ならオープンラボに代わるコンテンツを大々的に用意すべきなのでしょうが、今年は修士2年生の研究を報告するという形にしたいと思います。
最初に報告するのは曲木の研究です。曲木とは簡単に言えば木を曲げる技術の事で、蒸気を使う方法やスリットを入れる方法等がありますが、本研究では主にスリットを入れる方法で曲率を制御していきます。
このような感じで木に加工を施すことで曲がるようにします。 この曲木の技術を使って色々な曲面を表現しようというのがこの研究の目標になります。 そもそも、曲面とひとまとめに言っていますが実は簡単に表現できる面とできない面があります。そこで簡単に曲面の分類についてお話したいと思います。
曲面の中には可展面と呼ばれる平面に展開できる面があります。このような曲面は曲木でも簡単に再現することが可能です。身近なものでイメージするなら紙を曲げて(折らない)作られる曲面だと思ってください。すると球体のような曲面は表現できないことに気が付くと思います。球面のような2方向に曲率を持っているものを複曲面といいます。複曲面やねじれ面は平面に展開することができません。平面にするためには面を部分的に伸び縮みさせてやる必要があります。
スリットの入れ方を工夫すればこのようなことも可能ですがかなり剛性が落ちてしまうなど問題が出てくるので、もう少し単純に可展面の集合体で複雑な曲面を表現することにしました。ちょうど地球儀の表面をパッチワークで表現するようなイメージです。
ここからは実際に制作した物を見ながら考えていきましょう。まずはお試しで球体をちょっと変わった形に分割してみました。これをレーザーカッター等で作成し、組み合わせれば球体を作ることができます。 このように可展面の集合(組み合わせ)で様々な曲面を表現できないかと考えました。 さらにいろいろな形に対応できるようにするための挑戦として、テトラポットのように四方向に枝分かれする形も作成しました。球体のような規則正しい分割が難しいので少し苦労しましたがうまくパーツに分けることができました。このパーツを組み合わせることによって小さいですがそれらしい形を作ることができました。
曲面を可展面のパーツに分解することができるようになったので大きな作品の作成を行っていきます。サイズが大きくなると加工の問題と接合部の問題が発生します。大きな板材を加工する機械に加え、接合部の形状をしっかりモデリングし、加工する技術が必要です。
曲木を用いて形を作るには平面の状態から変形させ、固定する必要があります。そのため接合部の形は変形前と変形後で異なっています。つまり、変形を予測して接合部を作らなくてはなりません。
このようなテーブルを例に考えてみます。まずテーブルの概形をモデリングし、パーツごとに分けます。今回は5パーツの構成としました。この曲がったパーツを平面へと変形させます。立体のモデルを平面にするには変形の基準となる面をしっかりと定義する必要があります。
平面化を行った立体モデルが作成できたらいよいよモデルを加工していくのですが、この時斜めの加工は少し特殊な加工を行っています。一般的な加工機は3軸加工機と呼ばれ、ツールを斜めにすることができません。一方平沢研究室ではツールを自由に傾けることのできる5軸加工機を運用しています。こちらの加工機を使うことで接合部分を斜めに加工しています。
加工には研究室で培ってきた様々な知識が活かされています。無事に加工が終わったパーツを組み合わせるときれいに組みあがることが確認できました。スリットパターンが影に現れていて意匠的な面白さもあるかもしれませんね。
接合部の角度もモデリング通りに加工できていて、ぴったりと接していることが分かります。
最後に実際に使っているシーンを思い浮かべて小物を追加してみました。いかがでしょうか?お茶したり、のんびりしたり、優雅に過ごせそうですかね?
実はこのテーブルの上でひときわ目立つ風変わりなツボは3Dプリントで作られています。同じくM2の学生が研究で作ったものになります。次の記事は3Dプリントの研究になると思いますので楽しみにしていてください。 また椅子の方は3年前の作品になります。詳しくはこちらの記事(http://www.hlab-arch.jp/article.php/2018022219313191)をどうぞ。