2020年11月28日(土) 17:43 JST

5軸加工機の改良

  • 2020年8月10日(月) 16:45 JST
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当研究室では、施設管理者の好意により、数年前から自由に使える屋外展示スペースをキャンパス内で借用しています。このスペースには大きめの木造作品を年2回制作して展示することにしており、現在はレシプロカル構造のタワーと多面体を展示中です。コロナ禍でゼミ運営にも不自由する昨今ですが、そういう状況でも新しい作品の計画をしぶとく進めており、恒例の秋のオープンラボでのお披露目を目標に、細々とですが活動しています。


5軸加工機による加工 作品 小皿<梅>
(関連リンク)
レシプロカル多面体、展示中です
レシプロカル構造、どう造ったか?
レシプロカルタワーを制作しました

これらの木造作品の制作においては、当研究室で独自開発中の5軸加工機を主に使用していますが、タイトな制作スケジュールのなかで、加工機システムとしてはアドホックな部分を少し残してしまっていました。期限までに作品を完成させることが第一優先ですので、スマートとは言いがたいワークフローでもだましだまし運用せざるを得ませんでした。

しかしながら研究室の学生は毎年のように入れ替わりますので、アドホックな部分を放置しておくと「これはどうするの?」とか「あれはどうするんだっけ?」のような事象がたびたび発生します。知識を属人的な状態で放置しておくと、たった数年であってもノウハウの継承が難しくなっていきます。

これまでは5軸加工機の精度や機能の向上を優先してきましたが、開発そのものが一段落ついたのもあり、次のステップに進む前にシステムの整理を行うことにしました。コロナ禍でアクティビティが落ちたことも見直し作業に踏み切る切欠になったと思います。

今回見直したのは大きく分類して以下の4項目です。

  1. 座標系の扱いを他の加工システムと統一すること
  2. 主軸ATCを生かせる複数ツールの配置を定めること
  3. より一般的なG-codeを入力とすること
  4. 一部の加工種類(ミリングなど)で完全5軸実行を確認すること

1.~3.はあまりにマニアックな話ですので今回は4.についてご紹介したいと思います。

5軸加工機は、建築の構造材を効率よく加工することが目的のため、丸鋸とドリルを念頭に開発を進めてきました。これらのツールの加工パスについては、そもそも商用ソフトウエアが見当たりませんので、研究室内で内製しました。そのため、これらのツールのパスはXYZBCの5軸すべてをフルに活用する真の5軸パスになっています。

一方で、丸鋸とドリル以外のツール、たとえばエンドミルによるミリングについては、既存の商用ソフトウエアを使用してツールパスを作成してきました。これらのツールパスは、実は真の5軸パスではありません。世間に普及しているCAMは3軸加工を前提としたものがほとんどです。たとえば回転軸ユニットが付加されている加工システムの場合、理論上は4軸なのですが、パスを生成するCAM側では事前に付加軸を固定してから実質的には3軸パスを生成します。これは付加軸が2軸になっても同様で、先に平面(2軸)を固定してから、3軸のパスを生成します。このように生成するパスのことを3+13+2のように表現します。わざわざ区別して表記していますが、出力されるG-codeの仕様には違いはありません。

当然のことですが、5軸加工機は3+2といった擬似5軸ツールパスを区別することなく実行します。5軸加工機を開発している立場からするとなんとももったいない使い方だと思うのですが、完全5軸のパスを生成できるCAMが身近にないということもあり、ミリングについては3+2で運用してきました。よくわかっている人が見ると「5軸の動きをしてない」と気づいたかもしれません。

そこで今回の改良に際しては、真の5軸パスを5軸加工機に実行させてみて問題ないことを示すことにしました。この件については新規の技術開発はまったくなく、理論上実行可能な5軸加工機の潜在能力を確認すること、が目的となります。

上述したように、3+iでない、真の5軸のツールパスを出力できるCAMは一般的ではありません。あっても非常に高価で、対費用効果の観点からは採用するのが憚られるほどです。そこで今回の試験では、廉価な一般的なCAMでも扱えるスワーフ加工について試験することにしました。スワーフ加工に関しては5軸をフルに活用したパスになるので、廉価なCAMで生成したパスでも検証できるからです。


市販CAMによるツールパスの生成

上の動画はFusion360でツールパスを生成している動画です。単純な形状ですが、ツールが傾きを変えながら同心円を描くように動いているのがわかると思います。

下の動画は実際の加工の様子です。CAMのシミュレーション通りの動きが確認できます。ストレートビットですのでミリングよりは格段に加工スピードが速いところにも注目してください。


オリジナル5軸加工機による切削(注:音が出ます)

この例だけではやや寂しいですが、非常に高価なCAMでないとフル5軸のツールパスを簡単に出力できないので、今回の検証はここまでです。スワーフ加工でももう少し凝った形状の加工も可能なので、機会があれば改めてご紹介したいと思います。

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5軸加工機は今回の見直しでアドホックな部分を摘み取り、年度毎に学生が入れ替わっても途切れることなく使い続けられる準備が整いました。これで、これから先の屋外展示場での作品作りに集中できるようになりました。

ミリング系の加工については、相変わらず3+2の制限があるので、こちらをどうにかしたい気持ちが残ります。是が非でも、とならないのは上述の通りフル5軸パスを出力できるCAMは非常に高価で現時点ではその低CPが気になります。丸鋸やドリルではオリジナルCAMでフル5軸パスを出力しているので、残りもフル5軸にしたい気持ちはあるのですが、高価とはいえ市販ソフトウエアがあるせいで内製を決断するまでには至らないといったところです。市販CAMを導入するか、思い切って内製するか、もうしばらく判断を先送りすることにします。高機能な市販CAMが手軽に使える価格になればそちらを選択することになると思います。

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当研究室の5軸加工機の現状を紹介すると、オートツールチェンジャー付き主軸で制限なく複数種類の刃物が必要なだけ使えるのは言うまでもなく、市販の一般的な5軸加工機と比較して倍ぐらい大きいZ軸可動域が、大型の建築部材加工への適用を可能にします。市販の5軸加工機はほとんどが板材加工(造作材や家具用途)が主ですので、この点で本5軸加工機の建材加工での適用可能性はより高いといえます。


5軸加工機 ~ 大きいZ軸可動域とツール群

過去の作品例をみてもらっても明らかですが、現時点で精度の良い加工を安定して実行できます。加工可能領域は建材用としてはさらに拡張したいところですが、アルミフレームで作れる大きさとしては、加工精度確保のためには現状でほぼ最大と思われ、より大型化を目指すのであればスチール製への移行が必要でしょう。重量級の加工機となりますので、設置場所を含めて大規模な体制の見直しが必要です。

ソフトウエアに関しては、主要ツールである丸鋸・ドリルについてはオリジナルのフル5軸CAMは用意できているので、この記事で紹介したミリング系だけが懸案となります。加工する形状にもよりますが、現状でもあまり困ることもなさそうなので、こちらも安定した状態にあるといえます。詳しく説明しませんでしたが「3.より一般的なG-codeを入力とすること」により、市販のCAMで作ったG-codeを問題なく実行することができるようになっているので、CAMは使い慣れたものがそのまま使えます。実行するパスが3+2等になってしまうのは使用する市販CAMの制限といえます。

この5軸加工機は、これまで特定のスポンサーもなく開発と運用を続けてきましたが、安定して使用でき学外にも自信を持って提供できる水準まで達しましたので、今後の大型化・実用化を目標に共同研究のスポンサーを募りたいと思います。現在のコロナ禍環境下では小人数での受け入れになってしまいますが、デモは随時承りますので、以下のURLの連絡先までお問い合わせください。

(関連リンク)
木造ドームを制作しました
(参考)
共同研究に関しての事務的な情報に関しては以下のリンク先の記事をご覧ください。
共同研究等に関心のある企業の方へ