建築でコンピュータ、する?
2025年4月27日(日) 08:26 JST
数年前に、エイヤッとそれこそ清水の舞台から飛び降りる決意でロボットを導入してから、あれよあれよとロボットが増え、すでに他所に移籍したものも含めると計8機のロボットが研究室にやって来ました。8機目の方はしばらく先になりますが、今回はその初代ロボットを活用した研究の紹介です。
メーカー名は伏せますが、このロボット、不具合が多くて本当に困りました。木材の切削など、振動が出る仕事をさせるとエンコーダが狂うのです。何度も修理を依頼しましたが、部品が日本国内にないことがあったり、本当にちゃんと働いている期間が短い、そんなロボットでした。大学の研究室の場合、顧客の依頼を納期までに仕上げる、そんなクリティカルなデッドラインはない※のでなんとか使ってこられましたが、翌年以降、普通に動くロボットが研究室に入ってくると、木材切削からは退役しその後はタイル並べを細々と続けていましたが、いつしか電源も結線されることなく床にぽつんと放置されてしまいました。
※論文の締め切りはあります。為念。
そんな様子を見て不憫に思ったのか、M2の学生が「オレンジ君を使って何かしたい。人間用の3Dペンをロボットに持たせてみたらどうなるか、確かめたい。(注:脚色しています)」と申し出ました。人間用の3Dペンはおもちゃカテゴリーの製品ですので高価ではありません。ロボットへの装着は3Dプリンタでパーツを自作すればよく、低予算で試行できるのでやってもらうことにしました。
ロボットは6軸動作ですので、3軸しかない普通の3Dプリンタに比べると、比較できないほど自由な造形ラインをトレースできます。もちろん、それは理論上のことですので、3Dペンから吐出されたメディアがきちんとその場で留まってくれるかどうかはやってみないとわかりません。うまくいくときいかないとき、そのときの条件を実験と観察を通じてまとめていくことにしました。
上の図は開発環境のスナップショットです。このメーカーさんでは定番の構成です。説明は省略します。
すでに一番上の図で気づかれた方もいると思いますが、ロボット3Dプリントの技は実に多彩です。上の図の左側は、既設部位(写真では木材)の上に積層しています。形から推定できますが、通常の3Dプリンタと違い、積層面は傾いていてかまいません。傾いていてよいと言われても、それは機構的に4軸以上の自由度がなければ実行困難ですので、6軸ロボットによる3Dプリントの最も特徴的な技といえるでしょう。
また、ノズルから出力されたメディアが既設部と一体化さえすれば造形可能ですから、右図のように天地逆に造形することも可能です。ここではほぼ造形終了時点ですが、張り出した木梁から下方向に造形しています。ここでもらせん状にするために、積層面は水平とは限らず変動させながら造形しています。3Dペンの向きに注目してください。
さらに面白い技を紹介しましょう。上図左側は既に造形された柱状体に対し、以前とは直交する方向に増し打ち積層しています。3Dプリンタによる造形物の弱点に、積層面の剥離がありますが、このように直交方向に重ねて積層することで、合板のロジックと同様に異方性を解消することができそうです。既設部分と一定の距離を保ちながらの積層動作も、既設部分が曲面であっても、ロボットなら楽々実行します。さらに、右のように、既設部分から枝分かれする形状でさえも、追加で造形し一体化することもできます。
いかがでしょうか。いままでの3Dプリンタが霞んでしまいますね。今後の計画ですが、現在までの試作品は小さいので、建材程度の大きさのものに適用できるように開発を進めます。また、これは企業の方と共同研究を期待しているのですが、樹脂材料ではなくモルタル系の素材でも今回ご紹介したような多彩な積層方法が可能かどうか、確かめたいと思います。
現在共同研究パートナーを募集中です。ロボット3Dプリントに興味のある企業の方は、是非ご連絡ください。
(参考)