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2019年度修士論文発表会が行われました

  • 2020年3月11日(水) 16:00 JST
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2019年度の修士論文発表会が行われました。今年度の修士論文を簡単に紹介したいと思います。

  • 伝統木造建築部品のロボットを用いた仕上加工に関する研究
  • 勾配変化部を有する鋼製下地在来工法天井の構法調査と整理
  • マルチツールを用いた木質部品加工におけるワークフローに関する研究
  • クレーンでの揚重作業自動化における吊荷旋回装置の自律姿勢制御に関する研究
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伝統木造建築部品のロボットを用いた仕上加工に関する研究

伝統木造建築の制作や修繕には特殊な技能が必要であり、さらにその担い手は減少し続けています。そこで本研究室では建築分野における人工技能(技能の機械化)の研究に取り組んでおり、6軸腕型ロボットによる伝統木造建築部品の加工を行ってきました。既往研究では、1/5スケールの五重塔の部分模型の制作を行い、部分模型の制作では加工部位に応じて丸ノコやミル、ルータなど様々なツールを使い分けた加工が行われましたが、振動ノミは勘合部の入隅部への適用にとどまっていました。

そこで振動ノミの適応範囲を広めるべく本研究では、振動ノミを用いた加工手法を考案し、振動ノミによる加工パスの導出アルゴリズムを作成しました。それをもとに、加工パスの導出と視覚的な検証が可能なソフトウェアを開発し、木鼻などに見てとることができる彫り物の加工を行いました。振動ノミのような6軸制御が必要なツールを用いた加工手法の開発は、多品種少量生産を目的とした木部品の加工可能範囲拡張の一助になると考えられます。


勾配変化部を有する鋼製下地在来工法天井の構法調査と整理

地震大国と呼ばれる日本では過去の地震により度々天井脱落被害が生じています。これらの被害を受け建築基準法施行令が改正され、特定天井が適合すべき構造方法が示されました。劇場や音楽ホール、体育館などは特定天井に該当する場合が多く、その中でも音響性能が重要視される用途では複数の勾配や曲面の天井面が設けられるなど、特徴的な天井が見られます。複雑な形状を持つ天井が特定天井に該当する場合、決まった仕様はなく、設計の際には詳細な構造解析を行う必要があります。また、特定天井に該当しない吊り天井の耐震設計の基準は定められていません。これらの天井について耐震設計を考える際、既存の天井の納まりなどの基礎情報の整備が必要であると考えられます。

本研究では、文献調査により段差や曲面を有するといった特徴的な天井事例を収集し、それらの事例を天井の形状、耐震対策から分類しました。また、身近な天井事例として大学施設内の特徴的な事例について天井の内部を調査し、分類と併せて考察を行いました。


マルチツールを用いた木質部品加工におけるワークフローに関する研究

情報技術の発展により、アルゴリズミックデザインやコンピューテーショナルデザインと呼ばれるデザイン手法が建築にも広まりつつあります。これらはデザインの幅が広まる一方で、一般的な方法では加工が困難であることも多くあります。そこで本研究室では丸鋸をコンピュータから制御することで任意の加工を実現する五軸加工機を開発してきました。

しかし、丸鋸だけでは加工できる形状に制限があります。そこで丸鋸に加えてドリル、ミルを加えることでさらに自由度の高い加工を可能にするべく、さらなる開発を進めました。この加工に使うツール達を自動で付け替えるためにAuto Tool Changer搭載のモータ(以下、ATCモータ)を導入しました。その結果、加工範囲に合わせて本体を大型化し、さらに剛性を向上させる必要性が判明しました。さらに複数のツールを入れ替えながら加工を行うため、ワークフローが複雑化したので、それらを適切に処理する方法についても整理する必要がありました。

それらの問題を解決した後、実際にATCモータを用いていくつかの試作を行いました。まずは以前"レシプロカルタワーを制作しました"にも紹介したレシプロカルタワーです。これは丸鋸による斜め切断及び、ドリルによる位置決め穴の穿孔を行いました。人間では治具が必要になるような斜めの切断に、正確な穴あけといった機械制御ならではの利点を生かした試作となっています。次にミリングを用いた木鼻、大斗の加工です。ミリングの技術自体はありふれたものではありますが、丸鋸によって切削可能な部分だけ先に切り落とすことで、ミリングの加工時間を短縮することが可能になりました。


クレーンでの揚重作業自動化における吊荷旋回装置の自律姿勢制御に関する研究

本テーマは昨年度から継続するもので、クレーンの揚重作業の自動化を、吊荷旋回装置下のカメラから得た画像をコンピュータビジョンにより処理することでサポートしようというものです。具体的には吊荷などに貼り付けたマーカーをトラッキングし吊荷旋回装置の制御の自動化を行うこと、適切な荷吊り位置にクレーンを誘導できるよう位置の補正値を得ること、の二点に取り組みました。

マーカートラッキングを使ったことがある方はカメラとマーカー間の位置関係は簡単に求められるのでは…と思うかもしれませんが、施工現場の至るところに位置と向きの既知なマーカーがある、という状況はコストもかかりあまり現実的ではありません。吊り荷のリンク位置を示すマーカーの現場での座標は不明という条件下で、荷吊りのための吊荷旋回装置の制御と位置の補正値の算出を行います。詳しい理屈は省略しますが、これらを行おうとすると旋回装置の方位が重要になるため、既知のマーカーが見切れてしまっても旋回装置の方位を取得できるよう、aKaze、ORBといった局所特徴量による方位推定と深層学習による方位推定を実装しました。GNSS(所謂GPS)との比較検証ではGNSSには劣るものの十分な精度が得られることが確かめられ、吊荷旋回装置の遠隔操作も含めた実証実験では、旋回装置の自律姿勢制御と妥当な位置補正値の算出が可能であることを確認しました。