建築でコンピュータ、する?
2024年9月20日(金) 09:06 JST
2017年度の修士論文を簡単に紹介します。本研究室からは3名の学生が発表を行いました。
工作機械による建築部材の制作が盛んになりつつあります。本研究では、多関節ロボット(以下、ロボット)や、五軸加工機による建築の木部品の加工を継続的に試行しており、ロボットでは、これまでに伝統木造構法による屋根隅部のスケール模型、デザイン性の高い欄間や螺旋階段の手摺のスケール模型の制作を行ってきました。ロボットに装備するツールにはいくつかの種類があり、曲面をもつ部品の加工で活躍するミリング加工では、小型のロボットは取り回しがよく、細やかな加工を行えるなどのメリットがあります。一方、実物大の建築部材を制作しようとすると、その可動域の小ささを解決する必要があります。
本研究では、ロボットそのものを移動させる走行台として一軸を付加することで、加工範囲拡大を試みました。一軸走行台の設計、制作とその制御、ロボットを移動させながらミリング加工を行うためのパス生成などを一つのワークフローとしてまとめました。実物大の螺旋階段の手摺、ゴールドバーグ多面体によるオブジェの制作も行い、提案するワークフローの確認も行いました。
五軸加工機を駆使し、新しい構法の創出しようとする継続的な取り組みのなかで、加工機を動かすための加工パスを導出するためのロジックに関する研究です。実に五世代目となるバージョンアップにより、加工精度向上のためのキャリブレーションやワークの保持機構の工夫などが行われてきました。数値制御されたノコによって特定の形状専用のジグが不要となり、様々な形状の部品加工が見込めるようになると、次は部品形状毎に加工パスを導出する作業がボトルネックになることがわかります。加工する面やエッジをクリックして加工パスを登録する、という手作業は、部品形状のバリエーションが増えれば増えるほとコストとなります。切れるか切れないかという判断にもある程度の経験が必要です。
本研究では、このボトルネックを解消するために、部品の三次元形状を幾何学的に分析することで、加工可能な面の判別、丸ノコ加工パターンへの分類、自動的な加工パスを導出するといったアルゴリズムの実装を行いました。加えて、導出した加工パスを検証するためのシミュレータも開発しました。6種類の部材から構成される凧型二十四面体ドーム、53種類からなるカテナリードームの制作を行い、五軸加工機および提案する加工パスの導出、シミュレータを含む制御システムの新構法創出における可用性を確認しました。
多くの建築CADには、ビジュアライゼーション手法としてレイトレースレンダリングによるパースの生成機能が用意されています。相応の時間を要しますが、簡易な表現の操作画面では確認できない採光や材質による空間の変化を確認できるため、プレゼンテーションのみならず設計段階でも使われることがあります。一方で、コンピュタゲームなどに用いられるゲームエンジンはインタラクティブに写実的なCGを生成できるため、建築CADで作成したデータをゲームエンジンに取り組む事例も増えつつあります。しかし現状ではデータ移行のために多くの作業を必要とします。
本研究では、建築CADとゲームエンジンをデータベースによって接続し建築モデルデータを管理することで、双方的なモデル変更を可能とし、スムーズな連携、直感的な操作のできるビジュアライゼーションを実現しました。これにより、VR体験と設計を平行したデザイン手法の実現やVRシーンから得られた意見を即座に反映することが期待できます。