建築でコンピュータ、する?
2024年11月 6日(水) 14:53 JST
広島にて行われました建築学会大会(中国)に参加してきました。本研究室からは以下のタイトルにて計11本の研究発表を行いました。昨年度の修士論文ないし卒業論文と内容が重複しているものもありますが、その内容を簡単に紹介したいと思います。
細胞型可動テンセグリティ構造、関節型可動テンセグリティ構造、膜テンセグリティ構造の3つの変形可能なテンセグリティのデザインについて報告を行いました。細胞型可動テンセグリティ構造では物理エンジンを用いたシミュレーションにより、テンセグリティとしての機構的な性質を保ったまま目的とする形状に近づける操作を導出する方法を示しました。実機での実験においてもこの操作を適用することで、変形が行われることを確認しました。膜テンセグリティは細胞型、関節型が引張材を伸長させるのに対し、このテンセグリティは圧縮材を伸長させ、引張材の代わりに膜を使用することで構造が成り立つというテンセグリティてす。伸縮する三本のロッド(圧縮材)と膜(引張材)によりテントのような空間をつくることができます。
多関節ロボットを施工にも適用してみようということで、複雑なタイルパターンの施工に取り組んでいます。昨年度も同様のテーマにて発表を行いましたが、ここでは、カメラを通してタイルの色・座標・回転情報を取得することによって、無作為に置かれた5色のタイル群から目的のタイルを選別し、ロボット制御により拾ってくる事を実装しました。所謂ロボットの目、ばら積みピッキングに関連する技術ですが、このような技術を導入することで、室内実験であっても現実味といいますか可用性があがっていく実感があります。近似色のタイルの選別や重なったタイルの情報取得などを課題として、今後も研究を進めていきたいと思います。
主に産業用に使われる腕型ロボットを用い、様々な木質部品の加工を行い、考察を行いました。
ロボット加工においては所謂数値制御により、手加工で必須となる墨付けや治具を用いずとも、正確な動作を行うことができます。その1では、様々な角度からノコ歯を入れる必要のある正多面体の加工を例に、墨付けや治具が不要であることを再確認し、それが部品加工にどのような効果をもたらすか考察しました。
また、連続的な曲面を有する形状は、墨付けや治具を駆使しても手作業では加工が難しく、ロボット加工の適用にふさわしいシーンだと考えられます。その2ではロボットにミリングツールを装着し、螺旋階段の手摺加工に取り組みました。結果、ロボットそのものは墨付けや治具を要しませんが、作業空間においてワークを適切に支持する仕組みが必要であることがわかりました。ここでは手摺の三次元モデルにランナーを含め、それにより支持する方法を取りましたが、まだまだ工夫の余地がありそうです。
その3では、これまでの考察を背景に、ロボット加工の特長を活かしたデザインについて試行しました。曲面が微妙に変化しつつ連なるようなデザインをコンセプトとした「欄間」を二例作成し、それぞれについてその三次元モデルによる設計、加工の様子を報告しました。研究室では、現在、この二例を含め四つの欄間が実際に使われています。近くにお立ち寄りの際はぜひ足を運んでいただければ幸いです。
五軸工作機械はプレカットの生産現場ですでに導入されていますが、どちらかと言うと生産の効率化のために用いられています。五軸工作機械は五つの軸を駆使することができれば、実はより複雑な造形を行うことも可能です。当研究室では五軸工作機械およびその制御システムを自前で開発し、それを活用することで新しい構法を創出できないかと研究を行っています。
ここでは、校倉構法を題材に試行を行いました。その1では校倉形状の分類を通し、特にその交差(仕口)部の形状を、溝加工、腰掛け加工、切落し加工の三種の丸ノコ加工パターンの組み合わせで表現するといったモデル化を試み、これに基づき校倉部材の設計を行いました。その2では、この設計案の加工の流れを示しました。五軸工作機械とその制御システムにより、実加工や傾斜を取り入れた新しい校倉、各部材が材軸方向に転びつつ、うねるように組み上がる校倉なども制作できることを確認しました。
SfMによる三次元モデルの復元技術と写真測量システムに関する研究です。過去の研究では、SfMにより写真の撮影位置・方向情報の取得し、BIMに紐付け管理する管理する課題に取り組んできました。SfMにより得られる写真の撮影位置が精度良く得られていそうなので、これをもとに仮想的にステレオカメラを構築し、写真測量を行う仕組みを開発しました。室内実験では誤差±0.1程度での計測ができましたが、建築大スケールでは誤差に対象物との距離に起因すると考えられる誤差も目立ちました。任意のペアで仮想のステレオカメラを構築できるというメリットを活かせばより実用的な仕組みとして提案できるのではと考えており、引き続き改良を進めていく予定です。
深層学習に用いられる教師データを、三次元モデルによって生成したらどうなるか試してみた、という研究です。 一品生産という性質の強い建築において、事前に学習用の写真を用意するというのは難しいのですが、BIM、バーチャルコンストラクションの背景のなか、それを三次元モデルで代用できることが確かめられれば、建築分野における深層学習の適用範囲が広がるかもしれないと考えたのが経緯です。
ここでは、継ぎ手仕口といった納まり形状を題材に、その識別を試行しました。納まりの三次元モデルをランダムに撮影し、さらにシフトトリミング、ぼかし等の加工を加えることで15万枚もの教師データを生成し、それによる学習を行います。この学習データにより、三次元モデルはもちろん、実写真においてもその納まり種別の分類が行えることが確認できました。
以前、姫路城城郭のCG復元として記事化したプロジェクトを纏めた報告です。反りのある屋根、城郭建築特有の開口部、土塀、石垣などをGDLで雛形として用意し、パラメトリックなモデリングを行うことで城郭全体の三次元モデル化を行いました。その際の、雛形のそのものや、生成できる部品の範囲、例えば屋根であれば屋根一面とするか、あるいは矩形となる四面とするか、などを作業性や雛形の更新の観点から考察しました。 なお、この成果として得られた復元CGは「姫路城公式ガイドブック」に掲載されています。残念ながらまだ一般向けに出版されていないようですが…、西の丸、三の丸、城下町を含めた城郭全貌の復元CGはなかなかの迫力があります。