建築でコンピュータ、する?
2024年10月 8日(火) 14:14 JST
先週、当研究室の博士後期課程の学生の論文の公聴会が行なわれました。「構法計画におけるアルゴリズミックデザインの実践的考察」と題して、コンピュータ上で表される簡易な形状モデルから、実現し得る精度をもった部品形状と生産情報を得る手法について発表しました。その内容について簡単に紹介します。
アルゴリズミックデザインでは時に「既存構法」から脱却するような自由な形態提案がなされます。アルゴリズミックデザインや3Dモデラによる設計案には、点・線・面といったプリミティブな要素が用いられますが、これらは部品の集合として成り立つ建築からしてみれば抽象的であり、この設計案をそのまま実現させることはできません。この抽象的な状態から具体的な状態へと昇華させるのが構法というものですが、それら設計案は、人手によっては到達困難な形状を生み出すという手法上の特徴から、構法検討や適用についても人手によっては困難であることが自明です。この研究では、構法計画にアルゴリズミックデザインの手法を応用することで、それら自由な形態を実現可能な部品の集合として表すことを目的としています。
研究では自由曲面の構成を主な題材として取り上げています。部品によって構成される建築モデルを構築するには、当研究室でこれまで行なってきたデジタルアーカイブ研究でもお分かりの通り、部品雛形が有効です。アーカイブを目的とする場合の部品雛形に記述される形状生成手続きは、「部品の設計法」ですが、構法計画においては部品の形状そのものが検討対象ですから、モジュラーコーディネーションのように定式化された設計法を記述することはできません(1)。また納まり等を三次元モデル上で検討する場合、構法の選択によって部品雛形の配置と種類も変わり得るため、この変更を容易に行なう手法が求められます(2)。そして構法計画ではそれら部品の生産可能性についても言及する必要があります。自由曲面の構法では少品種大量生産の組み合わせ型の部品と違い、ユニークな部品が多く生まれ得るため、選択・配置された部品には生産に活用可能な情報が含まれていることが望ましいといえるでしょう(3)。以上から構法計画にアルゴリズミック・デザインの手法を適用することは3つのサブテーマを解決することに置き換えられます。
これらサブテーマを整理し、人による構法選択に合わせて、アルゴリズムが(2)により用いる部品雛形を選択し、(1)に従って部品の形状展開を行ない、同時に(3)に用いる情報を生成することで、密な構法計画が実施可能になるスキーマを提案しています。各サブテーマについての考察は、過去に研究室で行なったプロジェクトをベースにしています。上段がCG、下段がそれらプロジェクトで制作した模型になります。うちいくつかは過去オープンラボ等で展示していましたので、ご覧になられた方もいらっしゃるでしょう。これらプロジェクトにおける各部品データは、それら形状データについては部品毎に3Dプリントして組み立てることができる程度に精緻にモデリングされており、CGや模型を用いての納まりの確認が可能です。また属性情報として部品の生産(部材とこれに対する加工の様態)や組立の助けとなるような設計情報も有しています。
論文の前半は部品雛形やその他のアルゴリズムに係る考察をもとに構法計画のための情報モデルを提案するいささか地味なものですが、後半では提案する情報モデルの可用性検討のための設計施工プロジェクトを紹介しました。新年の挨拶をさせて頂いたときのアレですね。お気づきになられた方もいらっしゃるでしょう。より実物に近いスケールでのテンセグリティ曲面屋根です。これに用いたユニットは、曲面の法線方向を向くストラットとその結合方式に特徴があります。デザインフローは過去紹介した手法を基本にビルドアップし、より建築らしい構法を適用しました。提案する構法計画のスキーマを適用し、抽象的な形状モデルに対して構法検討を行なっています。部品形状と部材長はすべてユニークとなりますが、自主制作可能であり、同時に3Dプリンタ等の出力を利用できるようそのディテールに工夫を凝らしています。テンセグリティデザインの要点は、その形状と応力とのバランス然り、これを実現させるためのディテールとその施工精度にあります。密な構法計画と、設計情報の活用によってもたらされたディテールと施工精度に支えられ、このように設計通りのテンセグリティ構造物をつくりあげることができました。
構法計画のための情報モデル、またテンセグリティ設計法の詳細については成果の取りまとめが終わりましたら、改めて紹介したいと思います。
現在は卒論、修論の発表・審査が進んでいます。こちらも落ち着き次第内容を紹介しますので、ご覧になってください。